第2章 「効果的なコミュニケーション術」 取るべきバランス
効果的なコミュニケーション術について考えるとき、2つの要素のバランスが重要であると『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』は指摘しています。
2つの要素とはFig 7で表したように「内容」(content)と「関係」(connection)です*1。
直訳してもよくわからないので、もう少し踏み込みます。
「内容」とは、文字通りコミュニケーションで伝えたいあるいは伝えてもらいたい内容です。
医療の現場であれば、診断は何か?どんな治療方針か?起こっている問題は何か?問題をどう評価しているのか?などに相当します。
当然ですが、「内容」がないコミュニケーションは効果的とはいえません。
もう一つの要素、「関係」とは、コミュニケーションをとる人物同士を、関係性、立場の違いを考慮した上で円滑につなげることを意味します。
お互いに気分良く意思の疎通ができることも「関係」に含まれますし、伝えたい内容を正しく相手に伝えるための工夫もまた「関係」に含まれる要素であるといえます。
こちらも当然ですが、円滑な意思の疎通ができなければ、つまり「関係」の要素が欠落していては効果的なコミュニケーションとはいえません。
結局のところ「効果的なコミュニケーション術」の本質とは、この「内容」と「関係」のバランスをとることに他なりません。
どちらか一方の要素だけに重きを置いてしまうと、コミュニケーションは崩壊するのです。
例えば、「内容」だけに重きを置いたコミュニケーションを想定してみましょう。
『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』でも挙げられている例ですが、医師と看護師が病棟で回診をする時、医師が一方的に専門用語で診断やその根拠、治療方針をまくしたてても、看護師と必要な情報を共有することはできません。
これは、医師と患者の関係でも同様のことが起こります。
医師が病状説明で専門用語を並べ立てて説明しても、仮にその説明内容が医学的に正しいとしても、患者には伝わりません。
専門用語をしっかりと伝わるようにする言い換えは「関係」の要素に含まれるのです。
「内容」は十分だとしても、それを共有するための「関係」の要素が欠落していると、効果的なコミュニケーションにならないのです。
逆に「関係」だけが強調された場合にはどうなるでしょうか?
日本の職場で時たま出てくる、飲み会で親睦を深める「ノミニケーション」というものも「関係」の要素に含まれるでしょう。
もちろん親睦を深めることそのものまでを否定はしませんが、少なくとも毎日飲み会をしていても仕事をする上で効果的なコミュニケーションができるようになったことにはなりません。
お酒を飲みながら話す内容に、仕事上必要な「内容」がどれだけ含まれているのか……。
少なくとも、僕の場合には一切含まれていないと断言できます。
あるいは、研修医や若手医師に対して過剰に友好的な指導医も、本来伝えるべき知識や技能をしっかりと指導しなければ、すなわち「内容」が欠落していては、効果的な指導ができているとはいえません。
いくら専門用語を平易な言葉に言い換えていたとしても、肝心の「内容」が間違っていたら意味がありませんよね。
繰り返しになりますが、「効果的なコミュニケーション術」は「内容」と「関係」のバランスの上に成り立ちます。
どちらか一方だけを効果的にしようとしても、全体として効果的にはならないのです。
次回はその「内容」と「関係」のバランスをとることを意識した練習を勉強します。
*1:『医師として知っておくべきマネジメントとリーダーシップの鉄則』では、connectionの訳語は「つながり」とされていました。「関係」もしっくりこない訳語ではありますが、本ブログでは「関係」に統一しています。