第2章 「効果的なコミュニケーション術」 特別編:症例プレゼンテーションのポイント
前回までで第2章の基本的なパートは終了です。
ですが、今回は第2章の補足として「症例プレゼンテーションのポイント」について少しまとめておきたいと思います。
なお、今回の記事に関しては大部分が僕自身の経験則に基づきますが、一部は『あの研修医はすごい!と思わせる症例プレゼン 〜ニーズに合わせた「伝わる」プレゼンテーション』を参考にしました。
この記事の内容自体があまり役に立たなかったとしても、こちらの書籍自体はオススメですので参考にしてみてください。
僕自身が後輩に対しても指導している症例プレゼンテーションのポイントは、3つです。
- はっきりと伝わる声・話し方を心がける
- 理路整然と筋道立てて伝える
- 余計なことは言わない
というわけで、早速順番に解説していきます。
01. はっきりと伝わる声・話し方を心がける
症例プレゼンテーションとは、そもそも何か大切な情報を「伝える」ために行うべきものです。
しっかりと伝わらなければ意味がないため、当然ですが小さすぎる声や早すぎる喋り方といった話し方はNGです。
カンファレンスでのプレゼンなのか?病棟回診途中のショートプレゼンなのか?など状況に応じて話し方を変える必要がありますが、それぞれの状況で適切な声のトーン、速さを心がけると良いでしょう。
また、「〜だと思います」「〜な感じです」「多分〜です」など、曖昧な表現は極力避けましょう。
曖昧な表現はそれだけでプレゼンターの自信のなさを表し、それに伴い情報の信頼度を著しく下げてしまいます。
一度周囲からの信頼度を失ってしまうと、そのプレゼンターの説明一切が信頼されなくなり、結果として質問責めにあう等ますますプレゼンがしにくくなってしまいます。
自信がないのであれば、十分な自信を持ってプレゼンできるように事前の周到な準備が必要です。
あるいは、「この件に関しては今後確認予定です」など予防線を張ってしまうのも良いかもしれません。
02. 理路整然と筋道立てて伝える
これは聞き手が「知りたいと思っている情報」すなわち「ニーズ」を意識すると分かりやすいと思います。
そもそも、患者さんのプレゼンテーションを始めるときに「なんという名前のどんな患者さんについての話をするのか?」という情報が真っ先に伝わらなければ、聞き手もどこに注意をして聞けばいいのかよくわかりません。
僕自身の専門は婦人科悪性腫瘍ですが、その場合には「名前、年齢、病名、組織型、進行期」の情報は真っ先に提示するのが望ましいでしょう。
具体的には
「山田 Aさん、56歳、子宮頸がん、扁平上皮癌、IB期の患者さんです」
というような具合です。
その上で、フルプレゼンテーションをするのであれば
「病歴 → 身体所見や検査所見 → 診断や進行期 → 予定している方針」
の順番で話すと良いでしょう。
現病歴の途中で検査の細かい数値を言って、その後急に既往歴の話になったかと思えば、急に心電図の所見について話し始める、というようなプレゼンだと、話があっちに行ったりこっちに行ったりと意味を追いかけにくくなってしまいます。
基本はカルテ記載における「SOAP」と同じです。
カンファレンスのプレゼン資料を作るときに、決まったフォーマットを準備しておくのも良いかもしれません。
03. 余計なことは言わない
カンファレンスで余計なことを言うのはご法度です。
ここで言う「余計なこと」には
- 伝えたい情報以外の枝葉の情報
- 聞き手に余計な混乱や不信感を抱かせる内容や言葉
を含みます。
例えば、子宮頸がん 扁平上皮癌 IB期の患者さんに対して腹式広汎子宮全摘術を行うとします。
その患者さんの経過を術前カンファレンスで説明するとき、職業歴や生活環境に関する情報や正常な結果しか出ていない全く手術にも診断にも関係ない検査の結果まで話をする必要はありません。
もちろん、プレゼンテーションの最中に聞き手が「腫瘍マーカーの値は?」などと追加で質問をしてくる可能性もありますが、それは質問をされたときに答えられれば良いのです。
準備のために十分な情報収拾をしておく必要はありますが、その全ての情報を提示する必要はありません。
必要な情報を全て網羅しつつも簡潔で手短に済ますためには、必要ない情報は話さないというのが鉄則です。
もう一つ、聞き手を混乱させたり、不信感を抱かせるような言葉も「余計なこと」に含まれます。
例えば、先の広汎子宮全摘前の患者さんの件で
「この患者さんは術前検査として行った造影CT検査の際に気分不快を訴えましたが、その後の診察で問題ないことを確認しているので、アレルギーはありません」
というセリフを言ったとします。
この情報はそもそも不要な情報ですが、それ以上に
「気分不快ってなに?」
「起こった反応についてのアセスメントは?」
「問題ないって何を持って問題なしと判断したの?」
などなど様々な疑問・不信感を聞き手に抱かせます。
一度このような疑問・不信感を聞き手に抱かせてしまうと、ますます質問責めにあう等してプレゼンテーションが破綻してしまいかねません。
「余計なことは言わない」
これが鉄則なのです。
というわけで、少し本筋の「統率力」から逸れてしまいましたが「効果的なコミュニケーション」に関連してプレゼンテーションのポイントをまとめてみました。
チームを率いる立場になれば、必然的に研修医や学生へのプレゼンテーション指導も行う機会も増えるかもしれません。
言っていることがコロコロ変わる指導医は信頼されないでしょうから、伝えるポイントを押さえて指導していきたいものです。
次回からは第3章として「フィードバックを利用する」ことを勉強しようと思います。